
出光興産株式会社
技術部プロセスシステムセンター
主任部員
村上 大寿 氏
石油・化学プラント運転のノウハウと技能を継承し24時間365日の安全操業を支えるナレッジマネジメントシステム
1911年に機械油の販売からスタートした出光興産。以来96年、石油の輸出入、精製、石油製品販売、資源開発、石油化学を事業の中核とする国内有数のエネルギー企業に成長した。2002年には、石油・化学プラントの安全操業を支えるNECソフトの「KnowledgeWorld」をベースにしたシステムをカットオーバー。以来4製油所、2工場の安全操業に貢献している。
- プロフィール
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出光興産株式会社
出光興産では、創業以来「人間尊重」を経営理念とし、社会から尊重される人間の育成に経営の主眼を置いてきた。エネルギー企業として石油製品・基礎化学品の製造販売を基盤事業としながら、石炭・ウランの資源開発など、他の燃料を調達する取り組みも行っている。さらに企業として成長を続けるために、独自の技術を用いた高付加価値商品の開発に力を入れ、顧客ニーズに対応した商品を提供している。
- 本社所在地:東京都千代田区丸の内3-1-1
- 創 業:1911年
- 株式会社設立:1940年3月
- 資本金:1,086億円(2007年3月末現在)
- 社員数:7,474名(2007年3月末現在)連結
- 代表取締役社長:天坊昭彦
人間尊重の事業経営で独自の地位を築く

全国約5200箇所のSSネットワークを通じて、ガソリン・軽油・灯油といった燃料油販売をはじめ、クルマ関連のサービス事業を展開している
出光興産株式会社は1911年の創業以来、「人が中心という人間尊重の事業経営」を原点として、「事業を通して一人ひとりが世の中で信頼され、尊敬される人間に成長していけば、会社も社会で信用されるようになり、世の中に貢献できる」という理念のもと、事業を発展させてきました。しかし、石油業界は1996年の特定石油製品輸入暫定措置法廃止、2002年1月の石油業法廃止に伴って完全自由化されたことにより、外資や電力業界・ガス業界とのボーダーレス化が進み競争が激化しています。
その結果、元売各社は競争力を高めるための合従連衡を行い、4大グループに再編されています。出光興産は4大グループの一角を占め、2006年10月には東京証券取引所一部に上場して経営力を強化しつつ、3つの事業分野でビジネスを展開しています。
まず、今までの強みを生かした安定力のある石油、石油化学の販売で収益を上げている「基盤事業」で、売り上げの約7割を占めます。2つめは同社ならではの技術や特許を活かした「高付加価値事業」で、有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)や燃料電池など、今後の成長が最も期待される分野です。3つめは「資源事業」であり、ノルウェーでの石油開発、ベトナムやタイ、カンボジアでの探鉱・試掘、さらに地熱開発も手がけ、発電用蒸気を電力会社に供給しています。
いずれの事業も安全や環境負荷低減が基本となりますが、なかでも基盤事業である石油・化学プラントの安全操業は重要な課題です。長年プラントの操業を支えてきた団塊世代社員の大量勇退が始まる前から、出光興産では安全操業に必要なノウハウの情報共有や技能伝承に取り組んできました。
環境への適合と安全操業が最重要課題

千葉製油所・工場:1963年に操業を開始。出光興産の基幹製油所として、最先端の装置や生産システムを多数導入し、首都圏を中心に旺盛な需要に対応している
環境とエネルギーは表裏一体の関係にあり、出光興産は事業を通じて環境活動を経営の重点課題として取り組んでいます。資源を無駄なく効率よく使うことこそ環境対策の第一歩と捉え、製油所と石油化学工場の相互で発生する副産物を有効利用し、燃料・電気などの相互融通を図ることで、省資源・省エネルギー操業を実現しています。
石油・化学プラントの安全操業は、順調な生産活動を維持するとともに、国際競争力の大きな決め手となるため、特に重要です。また、地域住民に迷惑をかける事故は絶対に起こしてはなりません。鉄鋼やエネルギーなどの装置産業は、一度操業を開始すると24時間365日の連続運転が求められ、操業しながら点検・整備を行い、安全確保に努める必要があります。
出光興産では、過去に経験した事故を教訓として、安全への取り組みを強化。組織体制においては社外アドバイザリー・コミッティの「安全保安諮問委員会」、そして製造部門に2つの専門セクションを設置してリスク管理に努めています。また、事故を未然に防ぐため、潜在的なリスクの認識と対応、技術・技能の伝承、専門技術力の向上などに注力しています。
現場では、各種の装置を安全に稼動させるため、フィールドマン、ボードマン、直長の3つの役割に分かれて業務を遂行し、安全操業を支えています。フィールドマンは自分の担当エリアを持ち、現場で設備を管理運転し、ボードマンは制御センター(計器室)内で製油所をコントロール・監視する役割です。直長はフィールドマンやボードマンに的確な指示を出す役割を担います。
「石油・化学プラントは3交替制で運転しています。5~8人の4チームが3交替で24時間操業を支えているため、安全操業を続けるには運転状況の引き継ぎが不可欠です。従来、運転、安全、工事など約20項目を引き継ぎ簿に記入し、引き継いだチームが注意事項を点検し安全確保を行っていました。この引き継ぎ簿には安全確保のための情報やノウハウが溜まっていくことになります。ただ、経営状況が厳しい時代に新規採用を控えたため、運転員の年齢構成に隙間ができてしまい、情報共有とノウハウや技能の伝承が課題でした。そこで2002年、引き継ぎ簿の電子化に取り組んだのです」と、技術部プロセスシステムセンター 村上大寿 主任部員は、ナレッジマネジメントシステム導入の経緯を話します。
使い勝手のいいNECソフトのナレッジマネジメントシステムを採用
引き継ぎ簿は法令で永久保存が求められるほど大切なもので、そこには装置の運転状態が記入・蓄積されています。万一事故が発生した場合は、引き継ぎ簿を分析すれば事故原因を特定することも可能です。つまり、引き継ぎ簿には安全操業に関するナレッジがぎっしりと詰まっているのです。2002年当時は、ようやく2007年問題が意識され始めた頃でしたが、出光興産ではそれ以前から安全操業のノウハウや技術の伝承を課題として捉え、取り組みを開始しました。
「情報の一元管理と効率化を行うために、以前から引き継ぎ簿の電子化が課題でした。実は徳山製油所および千葉製油所で電子化に取り組んだことがあり、ある程度の下地はありました。そこでの経験で、システム導入に際してはPCを使ったこともない現場の人が容易に操作できることが最も大切であると考えていました。そして、システムが24時間365日止まらないことを条件に検討し、最終的には3社のシステムに絞り込みました。3社のデモシステムを見た結果、NECソフトのシステムは安全管理の考え方がマッチしていたことと『やってくれそうだな』と感じましたので、2002年1月に導入を決定したわけです」(村上主任部員)。
最大のポイントは「使い勝手の良さとノンストップシステム」の実現でした。今までPCを使ったことのないベテランも多かったため、操作性が悪いと現場で使ってもらえず、システム化の意味がなくなります。そして、システム停止は業務停止に直結し、安全操業を確保することはできません。
NECソフトでは、ナレッジマネジメントシステム構築のノウハウと数多くの実績を基に、使いやすいシステム、そして高可用性のシステムを提案しました。NECソフトのナレッジマネジメントシステム「KnowledgeWorld」をベースにして、本番サーバー、待機サーバー、各製油所・工場のサーバーそれぞれでデータの同期を取ることで、2つのサーバーが使えなくなっても残りのサーバーで業務を継続できる仕組みにしています。
さらに、ネットワーク障害に備えて、一定時間ごとに引き継ぎ事項をCSVファイルで蓄積・更新することで、ネットワークがダウンしても最新のデータを見ることができるようにして、業務が止まらない工夫をしています。システムリスク(ハードウェアおよびソフトウェア)の回避に加えて、ネットワークリスクにも対応した万全のシステムを構築したのです。

コントロールルーム:製油所の生産の中心として、運転、管理(生産、設備、安全)、製品の出荷を担当する人が1箇所に集まり集中管理を行っている
現場の使えるシステムにすることが最大のポイント
千葉製油所での1年間のパイロット運用後、使い勝手を向上させた本番システム「iPOS(idemitsu Process Operation System)」が、北海道・愛知・徳山の製油所と千葉・徳山の工場で稼動します。パイロット運用の際には、各地の現場を回って、システムの使い勝手の向上に努めました。
「システム化しても実際に使ってもらえなければ意味はありません。そこで、千葉製油所に導入した後も、使いやすくするために各地の製油所と工場を回り、現場の意見を聞きました。また当時は、製油所や工場ごとに引き継ぎ簿の記入にも特色があり、全社標準はありませんでしたので、作業の標準化にかなり苦労しました」(村上主任部員)。
システムを利用するのは、4製油所、2工場の現場担当者です。それぞれの要望が相反する場合もあり、調整に時間がかかりました。さらに、システム稼動後も、現場の人間が積極的に使うようになるにはさらなるプッシュが必要でした。
「キーボードを打ったことすらないような人もいますから、何度となく現場に足を運んで説明しました。将来役に立つからと訴え続けましたが、それでも使ってもらうようになるには2年半かかりました。今では、『消しゴムを使うよりはパソコンの方が楽』というまでになりましたが、そこまでいくのが大変でした。システム導入時の苦労よりも、伝道師としての苦労の方が大きかったですね」(村上 主任部員)。
最大のハードルは今までの手書きから、キーボードでの入力への移行でした。いくらナレッジマネジメントシステムを導入してもデータがなければ何の役にも立たないからです。いかに引き継ぎ作業のチェック項目を入力してもらうか、システムの成功はこの1点にかかっていました。
このハードルを乗り越えれば、業務として毎日データが入力・蓄積されるのでナレッジの精度は高くなります。この点が、任意で入力するナレッジマネジメントシステムとの大きな違いです。村上主任部員はその点を十分踏まえて、伝道師としての活動に精力を注がれたといいます。

iPOS画面:引き継ぎ項目は20項目にも及び、それらの作業状態も一目でわかる(左)。また、操業に関する情報は全製油所・工場で一覧できノウハウと技能伝承に貢献 している(右)
情報共有が進み故障・事故の未然防止に威力を発揮
iPOSが稼動して5年、今や出光興産の安全操業になくてはならない基幹システムとして定着しました。
「作業の標準化ができ、どの製油所・工場でも同じやり方になりましたので、行き違いが少なくなりました。また、保安情報も充実し、故障・事故の異常を入力した途端に、部長や保安に関係する人間にメールが送信され、見過ごされることはありません。さらに、手書き時代は保安情報の連絡は各地にFAXで送っていましたが、iPOSでは写真データなどを共有することができるので、具体的な箇所をすぐに特定して対応することができます。例えば、ある製油所でポンプが壊れた場合、関連する各部署にメールが飛びます。同じポンプを使っている製油所では、この情報を踏まえてより丁寧に点検することができますので、未然に故障を防止できるようになりました」(村上 主任部員)。
手書きの引き継ぎ簿時代は、報告書が出来上がってから他の部署が参照できるまで3ヵ月はかかっていましたが、iPOSでは約1週間で報告書が共有でき関連部署での情報共有が迅速に行えるようになった結果、全製油所・工場の故障・事故の事前予防につながっています。
「最近、装置は2年に1回の停止点検から4年に1回の停止点検に変更されました。そうすると若い人は停止点検を経験する機会が少なくなります。しかし、iPOSを活用すれば、停止点検の時の様子を検索してシミュレーションできるだけでなく、分析結果もグラフで一目でわかります」(村上 主任部員)。
このように、iPOSによって確実にノウハウや技能が伝承されているといいます。しかし、これも入力したデータがあってのこと。データ入力の精度を上げるために、地道な努力が続けられています。
「最初はなかなか詳しい情報が入力されませんでしたが、最近はiPOSの効果が理解され、詳細なデータが入力されるようになりデータの精度が上がってきました。また、“ヒヤリ・ハット”のような自分の失敗したデータは隠れてしまいがちですので、同じことを繰り返さないために『見つけてくれてありがとう』を励行することで、多くの現場担当者からのヒヤリ・ハットを登録してもらえるようになりました。今では1日約100件、月2万件ほどiPOSへのアクセスがあります」(村上 主任部員)。
今までの実績をベースに次世代システムを計画
今まで大規模なプラント運用の引き継ぎシステムはなく、iPOSの効用がわかるにつれ、多方面で注目されるようになりました。出光興産では、5年間の運用実績を基に、次世代を担うナレッジマネジメントシステムの検討を始めています。
「システムは10年は使うものと考えていますが、ようやく半分過ぎました。データが蓄積され、検索にも時間がかかってきたこともあり、今から次世代のシステムを考えています。また、システムに関する問い合わせもあります。NECソフトはどんなに無理難題を言っても対応してくれて本当に助かりました。今後もサポートをお願いしたいですね」(村上 主任部員)。
日々成長していく出光興産のナレッジマネジメントシステムは、これからも安全操業を支え続けることが期待されています。
システム担当より

NECソフト株式会社
ITシステム事業部
コラボレーションサービスグループ
プロジェクトマネージャー
木藤 整敬
NECソフト株式会社
ITシステム事業部
コラボレーションサービスグループ
プロジェクトマネージャー
後藤 和博
NECソフト株式会社
ITシステム事業部
コラボレーションサービスグループ
リーダー
中村 英二
2002年1月にKnowledgeWorldの採用を決めていただいてから、出光興産様とは5年以上のお付き合いとなります。システム導入当初は、1年以上に渡るパイロット運用を含めお客さまのご要望にお応えするため、システム開発、提案、障害対応などに追われていました。作業現場を見学させていただいたり、利用される方のご要望をお客さまと一緒に検討したりしながら、利用される方に認めていただけるシステムを目指して取り組んできました。その結果、現状では業務基幹システムとして広く認知をしていただき、お客さまから高い評価をいただいています。今後もお客さまのご要望を第一に考え、お客さまの満足度の高いシステム作りに貢献していきたいと考えています。
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